歴史的事件を新たな角度から見せる映画『大統領暗殺裁判 16日間の真実』

激動の近現代史をモチーフにした見応えのある映画が次々と登場する韓国。1979年に起きた朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺事件を取り上げた作品も数多い。『大統領暗殺裁判 16日間の真実』は、これまであまり注目されることのなかったひとりの人物の裁判の過程から、この事件を振り返る。

大統領を殺した男たちの裁判を見つめる

1979年10月26日、大統領暗殺事件が発生。大統領に銃を向けた中央情報部長김영일(キム・ヨンイル)とともに、現場にいた警護員たちを殺害した随行秘書官박태주(パク・テジュ)らも拘束される。

容疑者たちは揃って法廷に立つことになるが、唯一、軍人であったテジュは一審制の軍事裁判で裁かれることに。

名声を求めて彼の弁護を引き受けた정인후(チョン・インフ)はテジュが「大統領暗殺」という目的を知らなかったと主張しようとするが、軍人としての原則を第一に考えるテジュは彼の戦略に同意しない。

大ヒット映画『광해, 왕이 된 남자(クァンへ ウァンイ ドェン ナムジャ)(王になった男)』(12)の추창민(チュ・チャンミン)監督が手掛けた本作。韓国では24年8月14日に公開され、同じ時代を扱った『서울의 봄(ソウルエ ポム)(ソウルの春)』(23)と比較されることも多かった。

これについてチュ監督は映画雑誌『シネ21』とのインタビューのなかで『ソウルの春』は12月12日に起きたクーデターという大きな事件と私たちがよく知る歴史上の人物を扱っているが、『大統領暗殺裁判』では、その他の事件と人々を見せたかった」と語っている。

その言葉のとおり本作では、主犯であるキム・ヨンイルやクーデーターの首謀者전상두(チョン・サンドゥ)はあくまでも脇役で、被告に正当な裁判を受けさせようと奔走する弁護士たちに焦点が当てられている。

法廷のシーンは記録をもとに再現され、実際に行われていた弁護士たちに対する妨害についても描かれている。

チョ・ジョンソクとイ・ソンギュンの演技が光る

主人公のチョン・インフを演じているのは『EXIT イグジット』(19)など、コメディの名手として知られる조정석(チョ・ジョンソク)。

「裁判は善悪でなく、勝敗が大事」と豪語していた俗物的な人物が、始めから決まった結果に向かって茶番劇のように進行していく裁判のなかで変化していく様子を見せている。

そんな彼と出会い少しずつ心を開いていくパク・テジュ役は本作の完成を待たずにこの世を去った이선균(イ・ソンギュン)。

深く響く声を生かした軽妙な台詞回しが印象的だった彼が、感情を抑えた静かな演技で、運命に巻き込まれた人物の達観を感じさせる。

事件後、一度、急いで自宅に戻り、妻に声をかけて去る後ろ姿が心に残る。

同時代を扱った作品との比較も見どころ

本作は김성수(キム・ソンス)監督が手掛けた『ソウルの春』とほぼ同じ時期に制作されたため、事前に監督同士が話し合い「メインキャラクターのキャスティングは重ならないようにしよう」と決めたとのこと。

『大統領暗殺裁判』では、後に大統領となる전두황(チョン・ドゥファン)をモデルとした人物をドラマ『梨泰院クラス』の유재명(ユ・ジェミョン)が演じているが、『ソウルの春』の황정민(ファン・ジョンミン)との違いを探してみるのもおもしろいだろう。

また、『남산의 부장들(ナムサネ プジャンドゥル)(KCIA 南山の部長たち)』(19)では、大統領を暗殺した김재규(キム・ジェギュ)がモデルの人物に이병헌(イ・ビョンホン)が扮している。

ちなみに本作の原題は『행복의 나라(ヘンボゲ ナラ)(幸福の国)』。

劇中とラストには1974年に한대수(ハン・デス)が発表し、多くの歌手によってリメイクされてきた歌『행복의 나라로(ヘンボゲ ナラロ)(幸福の国へ)』が、歌手김마수타(キム・マスター)のバージョンで流れる。


原題:행복의 나라
邦題:大統領暗殺裁判 16日間の真実
公開:(韓国)2024年8月14日(日本)2025年8月22日
監督:チュ・チャンミン
出演:チョ・ジョンソク、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、イ・ウォンジョン
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