2014年4月16日に起きたセウォル号事故。韓国の人々の心に大きな衝撃を与え、深い傷を残したこの出来事は、その後、様々な形で映画やドラマ、小説のモチーフとなってきた。
『君と私』は、俳優としても活躍するチョ・ヒョンチョル監督が「春がくるたびに、心を痛めている」人たちを忘れないために作り上げた美しい初恋物語だ。
演技派俳優チョ・ヒョンチョルの初長編監督作

教室でうたた寝をしていて不穏な夢を見た高校2年生の세미(セミ)。思いを寄せる同級生하은(ハウン)とどうしても会わなければと思った彼女は、学校を抜け出し、ハウンが入院中の病院へと向かう。
自転車との接触事故で足を怪我したハウンは翌日からの修学旅行に行かないつもりだったが、セミは彼女が持つ古いビデオカメラを売って費用を作り、一緒に行こうと説得を続ける。
韓国芸術総合学校映像院映画学科出身で、早くから才能を認められてきた조현철(チョ・ヒョンチョル)。俳優としては『차이나타운(コインロッカーの娘)』(15)で組んだ한준희(ハン・ジュニ)監督が手掛けたドラマシリーズ『D.P.(D.P.ー脱走追跡官)』で、軍隊内で執拗な暴力を受けていた兵士の変貌を鮮烈に見せ「韓国のジョーカー」とも呼ばれた。
そんな彼の初長編監督作である『君と私』は、自身の経験をもとに着想したという「死を目前にしたある学生の物語」を7年の月日をかけて完成させたものだ。

初恋のときめきと高校生たちの日常

299人の命を奪い、今なお5人が行方不明のままであるセウォル号事故は、その犠牲者の大半が修学旅行途中の高校生だったこと、さらに、その事故の一部始終がテレビやインターネットで生中継されていたことから、韓国社会に大きなトラウマを残した。
あまりに悲痛な出来事であるせいか劇映画にするのはなかなか難しく、残された家族の日常を見つめた『생일(君の誕生日)』(19)がわずかに目立つ程度だ。
ただ、アクション・コメディ『엑시트(EXIT)』にモールス信号を使って救助を求めるシーンがあるなど、多くの作品のあちこちに事故の記憶が刻み込まれている。
そんななか、『君と私』は、ティーンエージャーの女性たちの恋物語として、学生たちの人生の掛け替えのなさを見せる。
「好き」である気持ちがあまりにも大きくて、肝心の相手のことが見えなくなってしまうセミ。一途で不器用な初恋のときめきが痛いほど伝わる。チョ・ヒョンチョル監督は塾の講師などをしながら高校生たちのリアルなやりとりをつかんだとのことで、主人公2人だけでなく、周りの友人たちも含め、丁寧にとらえている。

主演2人の瑞々しい演技も印象的

セミ役は『삼진그룹 영어토익반(サムジンカンパニー1995』(20)でチョ・ヒョンチョルと共演経験もある박혜수(パク・ヘス)。ハウン役は『다음 소희(あしたの少女』(22)でも高校生役を好演した김시은(キム・シウン)。
さらに、チョ・ヒョンチョルとは高校時代からの友人である『하얼빈(ハルビン)』(24)の박정민(パク・ジョンミン)が特別出演している。
大きな事故や災害が起きたとき、ニュースでは「死者○○人、負傷者○○人」と、数字だけが矢継ぎ早に報じられる。しかし、その「○○人」一人ひとりには、それぞれの人生があり、命を失う直前まで、笑ったり、どきどきしたり、悩んだり、泣いたりしていたという当たり前のことが、痛切に伝わる。

原題:너와 나
邦題:君と私
公開:(韓国)2023年10月25日(日本)2025年11月14日
監督:チョ・ヒョンチョル
出演:パク・ヘス、キム・シウン、オ・ウリ、パク・ジョンミン
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