“働く人たち”の姿をリアルに描く映画『ただ、やるべきことを』

 約20年前から始まった韓流ブームをきっかけに、ドラマや映画、音楽、食べ物が身近なものとなり、韓国についての情報が一気に増えた。しかし、考えて見ると、隣の国に住む人たちが毎日、どんな生活をして、どんなふうに働いているのかをリアルに感じられるコンテンツはそれほど多くない。そうしたなかで『ただ、やるべきことを』は、造船所の人事チームで働く主人公の日常を通して、厳しい時代に生きる“働く人たち”の姿を見せてくれる。

造船会社でリストラを行う人事チームが舞台

 造船業界の業績が悪化していた2016年。入社から4年目の간준희(カン・ジュニ)は、資材部から人事チームへの異動を命じられる。折しも会社ではリストラが行われることになっており、ジュニも同僚たちと一緒に希望退職者の名簿作りに着手。その過程で、かつて共に働いていた資材部の上司と先輩がリストラ対象となっていることを知る。

 造船会社の人事部で働いていた経験を持つ박홍준(パク・ホンジュン)監督が、実際に見聞きした出来事をベースに制作した今作。労働問題を扱った映像作品というと、大型スーパーで実際に起きたストライキを題材とした부지영(プ・ジヨン)監督の「카트(明日へ)」(14) や、家電会社の人事チームを舞台としたドラマ『미치지 안고서야(大丈夫じゃない大人たち〜オフィス・サバイバル〜)』が思い浮かぶ。こうした作品と比べて『ただ、やるべきことを』が異色なのは、映画の大部分が人事チームのオフィス内で進行するという点だ。「人事担当部署」というと、「同じ社員のなかでも会社側に立つ悪者」として描かれることが多いが、今作はそうではなく、そこで働くひとりひとりの人間が抱える葛藤をていねいに見せ、「あなただったらどうしますか」と問いかける。

史実な主人公の心の揺れを表現

 主人公となるのは、誠実な働きぶりを評価されて人事チームに移動してきたジュニ。新しい部署でもすぐに有能ぶりを発揮するが、上層部の意向に左右され、公正さを失っていくリストラに少しずつ疑問を持つようになる。演じているのは、これが初めての主演作となる장성범(チャン・ソンボム)。造船業が盛んな巨済島を舞台にしたドラマ『땐뽀걸즈(恋のステップ キミと見つめた青い海)』(18)での演技を見た監督に抜擢されたという点でも作品との縁を感じる。一見、強面にも見えるルックスだが、その奥に隠された複雑な心情を繊細に表現している。

共感を呼ぶリアルなキャラクターたち

 ジュニだけでなく、彼をとりまく人物たちのキャラクターと演じる俳優たちの演技もすばらしい。特に、平凡な悪役にも見えかねない、人事チームのチョン部長を立体的に見せた김도영(キム・ドヨン)は高く評価され、Netflix映画『계시록(啓示)』(25)に起用されるなど活躍が続いている。また、ジュニの苦悩を見守り、励ます恋人재이(ジェイ)役の이노아(イ・ノア)、人事チーム唯一の女性で、短大卒という学歴によって仕事に限界を感じる손(ソン)代理役の장리우(チャン・リウ)の自然な演技も印象に残る。

 仕事の種類はなんであれ、 “해야 할 일(しなければいけないこと)”と自分の良心の間に挟まれ、胃の痛い思いをしたことがある人は多いだろう。『ただ、やるべきことを』はそんな人たちに「サイダーのように」爽快な気分を与えてくれる映画ではない。しかし、日々の困難と折り合いをつけながら、「少しでも明日がよくなるように」との思いを抱えて懸命に生きている人が海の向こうにもいるとわかって、少しだけ勇気がわいてくる。

原題:해야 할 일
邦題: ただ、やるべきことを
公開:(韓国)2024年9月25日(日本)2026年11月1日
監督:パク・ホンジュン
出演:チャン・ソンボム、ソ・ソッキュ、キム・ドヨン、キム・ヨンウン
公式HP:https://worktodo-film.com/
©Nareun Cinema / Myung Films Lab.

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