激動の近現代史を果敢に映画にしてきた韓国。『済州島四・三事件 ハラン』は、日本の植民地支配から解放されて間もない時期に済州島で起きた悲惨な出来事を、ある母娘の視点から描く。
力で押さえ込まれた新しい国づくり

日本の敗戦後、新しい国づくりを目指す人々の動きを断ち切るかのように、アメリカとソ連によって南北に分割されてしまった朝鮮半島。やがて、南側だけで新国家設立のための総選挙が行われることになると、分断の固定化につながると反発する声が全土で上がる。そんななか、1948年4月3日、제주도(済州島)では武装隊による蜂起が起き、5月10日に行われた選挙でも、二つの選挙区で投票率が足りず無効となる事態が発生した。そうしたなか、8月15日に대한민국(大韓民国)が成立。島の中心に位置する한라산(漢拏山)一帯に潜伏する武装隊への鎮圧作戦は激しさを増し、ついに「海岸線から5キロメートル以上内側にいるものは暴徒と見なす」という布告が出される。これにより山に近い村に住む人々は、海側の村に疎開するか、軍人や警察官の目を逃れ、山中の洞窟に隠れなければならなくなってしまう。

女性たちの目で見る済州島四・三事件

日本に代わって済州島を支配下に置いたアメリカと、新たに誕生した韓国軍や警察によって、多くの人の命が奪われた済州島四・三事件。今作を監督した女性監督하명미(ハ・ミョンミ)は、プレス資料のなかで「何が起きたのかを説明するよりも、一般市民、特に女性や子どもがあの時代を耐え抜くことがどのような感覚だったのかということに寄り添いたいと思いました」と書いている。
子役時代から卓越した演技力で知られ、大ヒット『신과 함께(神と共に)』シリーズ(17&18)にも出演した김향기(キム・ヒャンギ)を若き母親아진(アジン)役に起用し、幼い娘해생(ヘセン)を抱える彼女が困難な状況のなか、必死で生き抜こうとする姿を描く。「自分たちが望む国を作る」という理想を胸に村を離れていた夫を追って山へと入った彼女は、そこで老人や子どもにまで容赦なく銃を向ける軍、警察を目にする。季節は冬になっていき、寒さが容赦なく襲いかかる。

ドラマ『おつかれさま』にもつながる母娘の物語

海女であるアジンと娘のヘセンを見ていると、『おつかれさま』のことが思い出される。歌手でもあるIUが母娘二代を演じ大ヒットしたドラマだが、50年代の済州島から物語を始めながら、四・三事件の影がまったく見えなかったことが話題にもなった。しかし、『済州島四・三事件 ハラン』と合わせて見ると、アジンとヘセンの姿が、ドラマの主人公エスンと、必死で彼女を育てようとした母の人生につながっていくようにも感じられる。ドラマでエスンの恋人の母に扮したカン・ミョンジュが、映画ではアジンの義母を演じていることにも驚いた。また、巫女であるアジンの友人が洞窟の中で祈りを捧げる際に「폭싹 속았수다(おつかれさま)」という言葉を口にする。
済州島四・三事件では、3万人といわれる犠牲者のほとんどが、「焦土化作戦」の行われた1948年11月から翌年3月までの間に亡くなった。生き残った人々の心と体にも深い傷を残した。元をたどれば日本の植民地支配が大きく影響し、難を逃れようと多くの人が日本に渡ったことを考えても、私たちと無縁の出来事ではない。韓国では4月15日から、同じく四・三事件をテーマにした『내 이름은(私の名前は)』も公開される。まだまだ、知ることは多い。

原題:한란
邦題:済州島四・三事件 ハラン
公開:(韓国)2025年11月26日(日本)2026年4月3日
監督:ハ・ミョンミ
出演:キム・ヒャンギ、キム・ミンチェ、ファン・ジョンナム、キム・ウォンジュン
公式HP:https://hallan-movie.com
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