友人たちと部活で汗を流し、K-POPが大好きで、両親にはちょっと反抗的。『トロフィー』は、そんな、ごく「当たり前」の女子中学生が主人公の青春映画だ。
もし、彼女にちょっと「違う」ところがあるとすれば、在日コリアンであり、朝鮮学校に通っていること。
今作で長編デビューを果たした孫明雅(そん・みょんあ)監督は、そんな彼女と彼女をとりまく人々が送る日常を静かなタッチで綴っている。
7月8日に書店CHEKCCORIで行われた孫明雅監督と社会学者のハン・トンヒョンさんのトークイベントでのコメントを交えながら紹介していきたい。
チケット代のために売ったのは父の宝物

朝鮮学校に通う14歳の少女ソヒ。舞踊部に所属して朝鮮舞踊の練習に打ち込んでいた彼女は、ある日、他校との交流会で日本人の中学生・未来(みらい)と知り合う。
同じK-POPグループが好きだったことからすぐに親しくなったふたりはライブに行こうと盛り上がるが、家の経済状況が苦しいことを知るソヒにはチケット代の当てがない。
やがて、不用品をフリマに売ってみようと決心し、父のCDコレクションから数枚を出品。意外にも北朝鮮のCDが高値で売れたことに喜んだソヒは、続いて父が祖国から授与された勲章を売ってしまう。
取材を重ねて描かれる中学生の日常

主人公ソヒと同じく、高校にあたる高級学校まで朝鮮学校に通った経験を持つ在日コリアン3世の孫明雅監督。
「みんなが知らなくて、(自分には)身近なこと」として今作の企画をスタートさせたというが、取材を始めてみると現在の朝鮮学校は自分が通っていた頃とずいぶん変わっていることに気づいたという。
映画のなかにはそんな「今どき」の中学生たちの姿が繊細に収められている。

在日コリアンとは、日本の植民地支配の結果として日本に居住することになった朝鮮半島出身者とその子孫のこと。植民地時代に日本に渡った人を「1世」、日本生まれの子ども世代を「2世」、孫世代が「3世」となる。
今作の主人公はさらに若い4世という設定だが、両親やその親世代も登場し、それぞれの思いが描かれている。
朝鮮学校は、そんな在日コリアンたちの民族的アイデンティティを回復する場として生まれた。現在も日本各地に、幼稚園、初級部、中級部、高級部があり、東京小平市の朝鮮大学校は今年創立70周年を迎えた。
トークイベントでハン・トンヒョンさんは「いろいろな矛盾がある場所ではあったけれど、『在日』であることが肯定される場だった」と振り返った。
朝鮮舞踊で見せる主人公の心情

孫明雅監督が「日本の方に朝鮮学校を知ってほしいと思って作った」と語った今作では、「大好きなグループのライブに行きたい」という強い思いに突き動かされたソヒの行動を追いながら、彼女たちが置かれている状況が描かれる。
「悪役」は登場せず、「在日コリアンとは」「朝鮮学校とは」と声高に語る人もいない。しかし、父が初級部の校長を務めるソヒの家の経済的な困難やソヒの弟の集団登校といった描写の積み重ねが、物語の背景を知る入口となっている。

そして、なによりもこの映画を稀有なものにしているのが、ソヒが踊る朝鮮舞踊。まったく経験がなかったという主演の恒那(ハンナ)が1年以上にわたって練習を重ね、ソヒの心情と成長を伝えるのびやかな踊りを見せている。
ソヒと未来が愛するBTSの曲で、タイトルだけが登場する『Permission to Dance』も、映画の世界を外へふわりと広げる役割を果たしている。

邦題:トロフィー
公開:(韓国)2026年(日本)2026年7月10日
監督:孫明雅
出演:恒那、井浦新、市川実和子、梨里花
©2026 K2 Pictures
『トロフィー』予告編
参考文献
- ハン・トンヒョン 「今を生きる子どもたちをそっと見守る、リアルで優しい等身大の物語」『トロフィー』劇場用プログラム
- 徐京植 『在日朝鮮人ってどんなひと?』平凡社
