10分で読める韓国文学史

10分で読める!19世紀から現代までの韓国文学史

韓国の文学史においてどのような作家が活躍し、どのような流れをたどったのか、なじみのない方がほとんどだと思います。

この記事では、19世紀から現代までどんな作品があり、どんな作家がいるのか、知る機会の少ない韓国文学史を紹介します。

開花期

韓国では1894年갑오경장(カボギョンジャン)(甲午更張)1を境に、政治制度から一般生活様式に至るまで西洋の先進文化を取り入れる近代化運動が始まった。

この時期の文学は翻訳、唱歌、新小説に分かれる。翻訳は聖書や賛美歌が多く、英国のジョン・バニヤン(John Bunyan)の『천로역정(チョルロヨクチョン)(天路歴程)』が1895年に翻訳された。

천로역정
『천로역정』
존 번연

1890年代後半に入っては「독립신문(トンニプシンムン)(独立新聞)」の発刊で、『애국가(エグッカ)(愛国歌)』『동심가(トンシムガ)(同心歌)』など独立思想を歌うものが多かった。これは최남선(チェナムソン)(崔南善)の「해에게서 소년에게(ヘエゲソ ソニョネゲ)(海より少年へ)」(1908年)という新体詩の発展へつながる。

해에게서 소년에게
『해에게서 소년에게』
최남선

新小説の代表作としては이인직(イインジク)(李人稙)の『혈의 누(ヒョレ ヌ)(血の涙)』(1906年)がある。韓国近代文学の父ともいわれている이광수(イグァンス)(李光洙)は『무정(ムジョン)(無情)』『개척자(ケチョクチャ)(開拓者)』を1917年に新聞に連載する。1917年には詩人윤동주(ユンドンジュ)(尹東柱)が生まれる。

1920年代

新文学は1910年の日韓併合の影響で発表作が少ないが、日本を通して新しい文芸思潮が入ってくる時期でもあった。

표본실의 청개구리
『표본실의 청개구리』
염상섭

1921年には염상섭(ヨムサンソプ)(廉想渉)『표본실의 청개구리(ピョボンシレ チョンゲグリ)(標本室の青ガエル)』、김동인(キムドンイン)(金東仁)『배따라기(ベッタラギ)(船歌)』、김억(キムオク)(金億)翻訳詩集『오뇌의 무도(オヌェエ ムド)懊悩(おうのう)の舞踏)』が発表される。

1920年に創刊された同人誌『개벽(ケビョク)開闢(かいびゃく))』には、김소월(キムソウォル)(金素月)の「진달래꽃(チンダルレッコッ)(ツツジの花)」「엄마야 누나야(オムマヤ ヌナヤ)(お母さん、お姉さん)」、현진건(ヒョンジンゴン)(玄鎮健)の「고향(コヒャン)(故郷:ロシア人作家チリコフ原案の翻案小説)」が掲載される。

진달래꽃
『진달래꽃』
김소월

1925年に結成された카프(カプ)(KAPF:朝鮮プロレタリア芸術家同盟)は、マルクス主義研究会などを開催しながら左翼文学の理論を論じ合う団体で5、6年間文壇を支配した。

主な作家としては、이기영(イギヨン)(李箕永)、최서해(チェソヘ)(崔曙海)、한설야(ハンソリャ)(韓雪野)、임화(イムファ)(林和)、안막(アンマク)(安漠)、박팔양(パクパリャン)(朴八陽)などが活躍した。

1930年代

この時期はファシズムの台頭、日中戦争の勃発で不安が高まる。김영랑(キムヨンナン)(金永郎)、이태준(イテジュン)(李泰俊)、정지용(チョンジヨン)(鄭芝溶)、이효석(イヒョソク)(李孝石)などは民族の哀歓を多く描いた。

金永郎以外の人たちは김기림(キムギリム)(金起林)を中心に「구인회(クインフェ)(九人会)」を発足。純粋に芸術を追求する傾向を見せた。

날개
『날개』
이상

이상(イサン)(李箱)の詩『거울(コウル)(鏡)』が1933年、詩『오감도(オガムド)(烏瞰図)』が1934年、小説『날개(ナルゲ)(翼)』が1936年に発表された。韓国のモダニストとして日本でも有名な박태원(パクテウォン)(朴泰遠)もこの時代に活躍。『천변풍경(チョンビョンプンギョン)(川辺の風景)』は1936年の作品である。

またこの時期登場した詩人たちはまぶしい光を放った。백석(ペクソク)(白石)の『팔원(パルォン)(八院)』、이용악(イヨンアク)(李庸岳)の『오랑캐꽃(オランケッコッ)(スミレの花)』、오장환(オジャンファン)(呉章煥)の『헌사(ホンサ)(献詞)』、서정주(ソジョンジュ)(徐廷柱)の『자화상(チャファサン)(自画像)』、이육사(イユクサ)(李陸史)の『청포도(チョンポド)(青ブドウ)』は今も多くの人に読まれている。

오랑캐꽃
『오랑캐꽃』
이용악

1940〜50年代

言葉を奪われていた文学者たちは、1945年の解放と同時に言葉を磨き直し文学的レベルを高めるが、1950年6月25日に勃発した6.25 전쟁(ユギオジョンジェン)(朝鮮戦争)は、再度この国に大きな悲劇をもたらす。

朝鮮民族はこの戦争で南北に分かれて戦うことになり、共産主義に影響を受けた多くの政治家、思想家、文学者、学生が北へ亡命した。

北朝鮮に渡った作家を월북작가(ウォルブクチャッカ)(越北作家)と呼ぶが、有名な作家は鄭芝溶、朴泰遠、홍명희(ホンミョンヒ)(洪命憙)、李庸岳、林和、李泰俊などが挙げられる。

以後、韓国では越北作家に対してその名前や作品名までも禁忌し、1988年に解禁されるまで、文学研究者さえもアプローチすることができなかった。

학마을 사람들
『학마을 사람들』
이범선

また、오상원(オサンウォン)(呉尚源)『모반(モバン)(謀反)』、이범선(イボムソン)(李範宣)『학마을 사람들(ハンマウル サラムドゥル)(鶴村の人々)』など、戦争の傷痕をテーマにした作品が発表された。

1960〜70年代

4.19 혁명(サイルグ ヒョンミョン)(4.19革命)25.16 군사정변(オイルリュク クンサジョンビョン)(5.16軍事政変)3を経験した作家たちは、政治・社会に対して覚醒し批判意識を高めた。

판문점
『판문점』
이호철

이호철(イホチョル)(李浩哲)『판문점(パンムンジョム)(板門店)』、남정현(ナムジョンヒョン)(南廷賢)『분지(プンジ)(糞地)』、김정한(キムジョンハン)(金廷漢)『모래톱 이야기(モレトプ イヤギ)(砂原の話)』に続いて詩人の김지하(キムジハ)(金芝河)、신경림(シンギョンニム)(申庚林)、김수영(キムスヨン)(金洙暎)、신동엽(シンドンヨプ)(申東曄)たちは現実を告発・風刺しながら民衆の痛みを作品化していった。

1960年代には이청준(イチョンジュン)(李清俊)、최인훈(チェイヌン)(崔仁勲)、서기원(ソギウォン)(徐基源)、박상륭(パクサンニュン)(朴常隆)、안수길(アンスギル)(安寿吉)などの、「内向き作家」ともいわれる若い世代が登場する。彼らは個人主義的な感性で中・長編小説を書いて発表する。

1970年代を代表する作家である최인호(チェイノ)(崔仁浩)、황석영(ファンソギョン)(黄皙暎)、윤흥길(ユンフンギル)(尹興吉)、김원일(キムウォニル)(金源一)、방영웅(パンヨンウン)(方栄雄)たちは新聞小説連載を通じて人気作家となる。崔仁浩『별들의 고향(ピョルドゥレ コヒャン)(星たちの故郷)』、조해일(チョヘイル)(趙海一)『겨울여자(キョウルリョジャ)(冬の女性)』はベストセラーになって、映画化もされた。

무진기행
『무진기행』
김승옥

また、김승옥(キムスンオク)(金承鈺)の『무진기행(ムジンギヘン)(霧津紀行)』、李清俊の『당신들의 천국(タンシンドゥレ チョングク)(あなたたちの天国)』、尹興吉の『장마(チャンマ)(長雨)』もよく読まれた。

一方、産業社会の渡来とその病理的な断面を表現した조세희(チョセヒ)(趙世煕)『난장이가 쏘아올린 작은 공(ナンジャンイガ ソアオルリン ジャグン ゴン)(こびとが打ち上げた小さなボール)』(1978年)は、韓国が民主化を経て今日まで読み継がれるロングセラーとなった。

1980〜90年代

1980年代に入ってから幾つかの大河小説が完結する。民主化運動の盛んな時期でもあった。

'태팩산맥' 책표지
『태백산맥』
조정래

その代表的な作品に、조정래(チョジョンネ)(趙廷来)の『태백산맥(テベクサンメク)(太白山脈)』、黄皙暎の『장길산(チャンギルサン)(張吉山)』を挙げられる。

이문열(イムニョル)(李文烈)の『영웅시대(ヨンウンシデ)(英雄時代)』、今は映画監督として有名な이창동(イチャンドン)(李滄東)の『소지(ソジ)(焼紙)』、이제하(イジェハ)(李祭夏)の『나그네는 길에서도 쉬지 않는다(ナグネヌン キレソド シュィジ アンヌンダ)(旅人は道でも休まない)』、박완서(パクワンソ)(朴婉緒)の『엄마의 말뚝(オムマエ マルトゥク)(母さんの杭)』もたくさんの人に読まれた。

詩集でもミリオンセラーが登場する。도종환(トジョンファン)(都鍾煥)の『접시꽃 당신(チョプシッコッ タンシン)(あおい)のようなあなた)』、서정윤(ソジョンユン)(徐正潤)の『홀로서기(ホルロソギ)(独り立ち)』は、詩集はもちろん詩をモチーフにした文房具なども作られ多くの女性から愛された。

접시꽃 당신
『접시꽃 당신』
도종환

1990年代に入ってからは、신경숙(シンギョンスク)(申京淑)、공지영(コンジヨン)(孔枝泳)、은희경(ウンヒギョン)(殷熙耕)、오정희(オジョンヒ)(呉貞姫)、최윤(チェユン)(崔允)、김인숙(キムインスク)(金仁淑)、전경린(チョンギョンニン)(全鏡潾)など、女性作家の活躍が目立つ。

また、1990年代の注目すべき成果の一つは、박경리(パクキョンニ)(朴景利)が25年間書き続けてきた大河小説『토지(トジ)(土地)』が完結したことである。この小説は幾度もドラマ化された。

토지
『토지』
박경리

2000年代以降

これまで大きく対立してきた「純文学×大衆文学」「リアリズム文学×モダニズム文学」「民族文学×外国文学」などの構図が崩れ始めた。

韓国の文学は、国家・民族・理念を超えて、個人の考え方や感覚で描くことで普遍性を獲得するようになってきた。

김영하(キムヨンハ)김연수(キムヨンス)한강(ハンガン)박민규(パクミンギュ)김애란(キムエラン)から、その後を継ぐ윤고은(ユンゴウン)황정은(ファンジョンウン)정세랑(チョンセラン)などの作品は、これからもっと世界の人々に読まれるようになるだろう。

  1. 朝鮮王朝末期の1894年(甲午年)から行われた近代化改革。 ↩︎
  2. 1960年3月に行われた大統領選挙での不正に反発する学生たちが、大規模行動を起こし、時の大統領이승만(イスンマン)(李承晩)を海外に亡命させた事件。デモが4月19日に頂点を成したことに名称は由来。 ↩︎
  3. 1961年5月16日未明、陸軍少将の박정희(パクチョンヒ)(朴正煕)が起こしたクーデター。以来16年続く軍事独裁政権の始点となった。朴正煕は元大統領박근혜(パククネ)(朴槿恵)の父。 ↩︎

この記事が掲載されている書籍

韓国語学習ジャーナルhana Vol. 04「韓国語の本を楽しむ」
韓国語学習ジャーナルhana Vol. 04「韓国語の本を楽しむ」
著者:hana編集部
定価:1518円(本体1380円+税10%)
SHARE

韓国語講座を探すLesson