梅雨を吹き飛ばすかのように、6月から暑さが押し寄せてきた今年の夏。
そんな中、「忙しくてなかなか海にも行けない」という人たちにおすすめなのが、タフな海女たちが活躍する群像劇『밀수(密輸 1970)』だ。
1970年代を舞台にしたレトロなファッションと音楽と合わせて楽しんでみてほしい。
アクションの名手リュ・スンワン監督による女性たちの物語
韓国西海岸に位置する港町군천(クンチョン)。船長の娘진숙(ジンスク)に率いられ、海産物を採って生計を立ててきた海女たちは、化学工場の廃液の影響を受け水揚げ高が減ってしまったことに悩んでいた。
そんな時、ブローカーから海に投下された密輸品を引き上げてくれないかと持ちかけられたジンスクは、よそ者だが頼りになる춘자(チュンジャ)の勧めもあり、仕事を引き受ける。
その後、金塊を引き上げる仕事まですることになった彼女たちだったが、係長장춘(ジャンチュン)の乗った税関の監視艇に発見され、混乱の中で船長だったジンスクの父と弟が命を落とす。
刑務所に入ったジンスクはタイミングよく姿を消したチュンジャが裏切ったのだと信じ、怒りを募らせていた。
大ヒットした『베테랑(ベテラン)』(2015)や実話を元にした『모가디슈(モガディシュ 脱出までの14日間)』(2021)など、エネルギッシュで見応えのある社会派アクション映画を作り続けてきた류승완(リュ・スンワン)監督が、『피도 눈물도 없이(血も涙もなく)』(2002)以来、約20年ぶりに女性中心の作品を完成。
架空の港町に集まったクセのある人物たちが、海底に沈められた密輸品をめぐって繰り広げる駆け引きを軽快に見せていく。
グラマラスなスタイルで知られる김혜수(キム・ヘス)らが着こなすカラフルな衣装や、人気ミュージシャン、장기하(チャン・ギハ)が手掛けた音楽にも注目。
特に김창완(キム・チャンワン)率いるバンド산울림(サヌリム)のヒット曲「내 마음에 주단을 깔고(私の心に絹を敷いて)」の意外な場面での使われ方に驚かされる。
3ヶ月の訓練で海女になりきった俳優たち
一度、離れたクンチョンに舞い戻り、ジンスクらと再び組もうとするチュンジャ役は1990年代からのトップスター、김혜수(キム・ヘス)。
出世作となった『타짜(タチャ イカサマ師)』(2006)や『도둑들(10人の泥棒たち)』(2012)を思い出させる、したたかで真意の見えない人物をダイナミックに演じている。
そんなチュンジャをなかなか許せないジンスク役は『인생은 아름다워(人生は、美しい)』(2022)の염정아(ヨム・ジョンア)。持ち前の華やかさを抑え、後輩たちのために尽力する姿が新鮮だ。
実は二人とも水が苦手だったため、出演前はかなりちゅうちょしたというが、約3カ月のトレーニングを受け、見事な水中アクションを披露している。
海女たちの物語といえば、ドラマ「우리들의 블루스(私たちのブルース)」が思い浮かぶが、強い結束力とよそ者に対する警戒心という面で共通点を感じる。
また、彼女たちを意外な形でサポートするカフェの主人옥분(オップン)役の고민시(コ・ミンシ)の見せるコミカルな演技も必見だ。
チョ・インソンのダイナミックなアクションにも注目
そんな女性たちの前に現れ、危険な魅力を振りまく密輸業界の大物권 상사(クォン軍曹)役は、『モガディシュ 脱出までの14日間』に続いてリュ・スンワン監督と組んだ조인성(チョ・インソン)。
映画の終盤では、ホテルの部屋という狭い空間の中で長い手足を十二分に使って見せるカリスマティックなアクションで、存在感を発揮している。
その他、ジンスクが服役中の2年間に大きく変貌する도리(ドリ)役に『다만 악에서 구하소서(ただ悪より救いたまえ)』(2020)の박정민(パク・ジョンミン)、税関係長ジャンチュン役に『킹메이커(キングメーカー 大統領を作った男)』(2022)の김종수(キム・ジョンス)が扮し、複雑なキャラクターになりきっている。
余談だが、チョ・インソンが차태현(チャ・テヒョン)と共にスーパーの主人となって奮闘するリアルバラエティ『어쩌다 사장2(見習い社長の営業日誌2)』(2022)には、今作で共演したキム・ヘスと박경혜(パク・ギョンヘ)がゲストで登場。
その楽しげなやりとりから、映画の撮影を経て彼女らがいかに親しくなったかが伝わってくる。