1998年から2003年まで大統領を務め、2000年の南北首脳会談の功績によりノーベル平和賞にも選ばれた김대중(金大中)。
『길위에 김대중(オン・ザ・ロード〜不屈の男、金大中〜)』は、その苦難に満ちた人生の半ばまでを記録映像や音声、関係者の証言によって振り返るドキュメンタリーだ。
韓国の現代史を体現したその歩みに改めて驚かされる。
軍事政権を脅かす政治家の誕生
朝鮮が日本の植民地下にあった1924年に전라남도(全羅南道)하의도(荷衣島)で生まれた金大中。
목포(木浦)で海運業を始め、事業家として奔走していた彼は朝鮮戦争中に이승만(李承晩)大統領へ失望を覚え、政治家となることを決意し、1954年の国会議員選挙に挑戦するも落選。
その後も落選を続けるが、李承晩失脚後に政権を握った장면(張勉)政権のスポークスマンとなって実力を知らしめ、1961年5月、ついに初当選を果たす。
しかし、すぐに박정희(朴正煕)による軍事クーデターが起きたため、国会は解散。1963年からようやく国会議員としての活動を始め、瞬く間に野党勢力を代表する政治家として朴正煕を脅かす存在となっていく。
命の危険を顧みず民主化のためにまい進
金大中の生誕100周年を記念して作られた本作。IMF経済危機直後に就任し、IT産業や映像産業の育成に力を入れたことや日本文化の開放、朝鮮民主主義人民共和国に対する太陽政策などを行った大統領としての金大中ではなく、軍事独裁政権と闘い続けた1987年までの足跡を追っていく。
映画を見ていて痛感するのは、何度も死に直面してきた彼の人生の過酷さだ。朝鮮戦争の開戦を仕事で訪れていた서울(ソウル)で迎え、命からがら木浦に戻ったのを皮切りに、政治家となって以降は朴正煕政権に命を狙われ、1973年には東京滞在中に韓国中央情報部(KCIA)により拉致される。
さらに1980年には光州民衆抗争(光州事件)の首謀者として死刑判決を受ける。そのたびに、どれだけの恐怖の中で生きていたのだろうと驚かされるが、不屈の精神で乗り越え、韓国の民主化のために立ち上がる。
そんな彼を熱狂的に支持する市民の姿も感動的だ。日本語版ではドラマ「파친코(パチンコ)」などのソウジ・アライがナレーションを務めている。
劇映画と併せて見ると理解も深まる
その軌跡が歴史そのものと言える彼の人生は、いくつもの劇映画のモチーフにもなっている。
『킹메이커(キングメーカー 大統領を作った男)』(2022)は、国会議員選挙で落選を重ねていた時代を背景に選挙参謀として組んだ男との関係を描いた作品で、金大中をモデルとした김운범(キム・ウンボム)を설경구(ソル・ギョング)が演じている。
その他、日本で起きた拉致事件を取り上げた日韓合作『KT』(2002)、アメリカ亡命から帰国し自宅軟禁状態にあった金大中を思わせる人物が登場する『이웃사촌(偽りの隣人 ある諜報員の告白)』(2020)、光州事件がテーマの『택시운전사(タクシー運転手 約束は海を越えて)』(2017)や1987年の民主化運動を時系列で追う『1987(1987、ある闘いの真実)』(2017)も、『オン・ザ・ロード〜不屈の男、金大中〜』と併せて見ると、理解が深まりそうだ。