南北に分断され、1953年以来、休戦状態が続いている朝鮮半島。今も軍事境界線では南北の兵士たちが銃を持って向き合っている。
韓国では、そうした状況を題材にした映画やドラマがいくつも作られてきた。
非武装地帯の部隊に所属し、境界線を越えて南に逃れることを夢見る兵士が主人公の『탈주(脱走)』も、そうした作品の一本だ。
除隊を控え、秘密の計画を実行しようとする兵士

朝鮮人民共和国(北朝鮮)の軍事境界線に近い部隊の部隊長임규남(イム・ギュナム)。
家族もなく、出身階級故に将来への展望も持てない彼は、除隊の日を控え、南へ逃れて新たな人生を始めようと計画。密かにシミュレーションを繰り返していた。
しかし、いよいよ決行が近づいたある日、部下で家族のいる南に行くことを熱望する김동혁(キム・ドンヒョク)から計画を知っていると告げられる。
結局、彼はギュナムに先行して脱走を試み、止めようとしたギュナムと共に逮捕されてしまう。
その後、事態を収拾するためやってきたのは、ギュナムの幼なじみで保衛部少佐の리현상(リ・ヒョンサン)だった。
アクションとヒューマンドラマの共存

ふとしたことから始まった南北兵士の交流の結末をミステリー仕立てで振り返る名作『공동경비구역 JSA(JSA)』(2000)、軍事境界線を越えた当たりくじを巡るコメディー『육사오(宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました)』(2022)、韓国人女性がパラグライダーで北朝鮮に行ってしまうドラマ「사랑의 불시착(愛の不時着)」など、南北を分かつ境界線はいくつもの物語を生み出してきた。
そんな中で『脱走』は、北朝鮮だけで話が展開されるという点がユニークだ。
監督は『삼진그룹 영어토익반(サムジンカンパニー1995)』(2020)の이종필(イ・ジョンピル)。自分の生き方を自分で決められる場所を求めて疾走するギュナムと、自身の地位を守るため彼に銃口を向けるヒョンサンの見せるアクションだけでなく、「人は誰もが、自分の願う形で幸せを求めることができるはず」というテーマが感じられるのが彼らしい。
旬の俳優イ・ジェフンとク・ギョファンの共演

ギュナム役は、シーズン3制作のニュースも聞こえてきたドラマ「모범택시(復讐代行人〜模範タクシー〜)」シリーズの이제훈(イ・ジェフン)。
周到な計画と驚異的な体力で目的を達成しようとする超人的な面と、部下を気遣う温かさを兼ね備えた人物を好演している。南北の境界線付近が舞台ということで、朝鮮戦争末期の激戦を描いた彼の出世作『고지전(高地戦)』(2011)も思い起こされる。

そんな彼を追い続けるヒョンサンに扮しているのはドラマ「D.P.(D.P. —脱走追跡官—)」シリーズの구교환(ク・ギョファン)。
特有の軽妙な口調の裏に複雑な感情を秘めた人物を細やかに見せている。

さらに、彼と因縁のある人物を「스위트홈(Sweet Home 俺と世界の絶望)」シリーズの송강(ソン・ガン)、ギュナムの部下ドンヒョクを『화란(このろくでもない世界で)』(2023)の홍사빈(ホン・サビン)が演じている。
韓国に対するギュナムの憧れと、映画のテーマを表現する曲として14年に大ヒットしたZion.Tの『양화대교(ヤンファ大橋)』を効果的に使用。繰り返し登場する「행복하자(幸せになろう)」という歌詞が耳に残る。
6月20日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
https://dassou-movie.com/
原題:탈주
邦題:脱走
公開:(韓国)2024年7月3日/(日本)2025年6月20日
配給:ツイン
監督:イ・ジョンピル
出演:イ・ジェフン、ク・ギョファン、ホン・サビン、ソン・ガン