2019年のデビュー作『엑시트(EXIT イグジット)』で多くの観客を引きつけ、一躍、注目の監督の仲間入りを果たした이상근(イ・サングン)。6年ぶりとなる新作『プリティ・クレイジー 悪魔が引っ越してきた』では、『EXIT イグジット』に続いて임윤아(イム・ユナ)を主役に迎え、微笑ましいホラーとラブコメディという異ジャンルの融合に挑戦している。
午前2時に豹変する「悪魔」との出会い

会社員生活に挫折し、家のなかに引きこもる日々を送っていた길구(ギルグ)。ある夜、エレベーターのなかで、派手な服装に横暴な態度の女性と出会い驚愕する。やがて、彼女が、最近、階下に引っ越してきた선지(ソンジ)であることを知る。従姉妹の아라(アラ)とベーカリーを営むソンジは、優しく穏やかな性格だったが、悪魔に憑依されているため、午前2時になるとまったく別の人格になってしまうのだった。彼女の父장수(ジャンス)から事情を聞き、その誠実な人柄を見込まれたギルグは「深夜のソンジのお目付け役」として、彼女とときを過ごすようになる。
『EXIT イグジット』で、「コメディー」と「災難もの」を組み合わせ、新鮮な作品を生み出したイ・サングン監督。デビュー作として温めていた企画をもとにしたという今作でも、「悪魔に憑依された女性」という、一見、恐ろしい設定から始まり、徐々に彼女を「愛おしく」思えてくるように見せていく手腕が見事だ。韓国で多くの人が暮らす「아파트(アパート)」(日本のマンション団地にあたる)が主な舞台となっているところも、親しみやすさを感じる理由のひとつ。ロケーション場所を探した結果、自身が住んでいるアパートの敷地内で撮影を行ったという。

二役を生き生きと見せるイム・ユナ

なによりも、今作の成功はソンジを演じたイム・ユナの魅力に負うところが大きい。「ガールズグループ少女時代出身」という修飾語が必要ないほど、俳優としての活躍が続く彼女は『공조(コンフィデンシャル 共助)』(17)に続いて出演した『EXIT』でコメディエンヌとしての才能を開花。イ・サングン監督やスタッフへの信頼で選んだという『プリティ・クレイジー』でも、昼と夜で見た目も性格もまったく違うソンジを生き生きと演じ分けている。「夜のソンジ」の派手な衣裳やメイクについては、積極的に意見も出したという。今作でフランス留学を夢見るソンジを演じた後、ドラマ『복군의 셰프(暴君のシェフ)』では、留学帰りのフレンチのシェフに扮しているのもおもしろい。

ソンジの豹変に戸惑いながらも、誠実に彼女を支えるギルグ役はドラマ『재벌X형사(財閥X刑事)』の안보현(アン・ボヒョン)。鍛えあげた肉体を生かしたワイルドな役柄も多い俳優だが、今作では運動経験豊富ながら傑出した特技がないという、ちょっと「残念な」青年を演じている。「負け犬の物語が好き」というイ・サングン監督は『EXIT』でも「定職に就かず(就けず)、公園で黙々と体を鍛え、甥っ子にも蔑みの視線で見られている」男の意外な活躍を描いた。ギルグも「得意なのはクレーンゲームだけ」という人物だが、思いがけない変化を周囲にもたらしていく。

破天荒な女性と彼女に振まわされる気のいい男性のやりとりが楽しい『プリティ・クレイジー』を見ていて思い出したのは名作ラブコメディ『엽기적 그녀(猟奇的な彼女)』(01)。ユナをおぶって歩くアン・ボヒョンの顔が、どことなく차태현(チャ・テヒョン)と重なって見えてきた。
原題:악마가 이사왔다
邦題:プリティ・クレイジー 悪魔が引っ越してきた
公開:(韓国)2025年8月13日(日本)2026年6月19日
監督:イ・サングン
出演:イム・ユナ、アン・ボヒョン、ソン・ドンイル、チュ・ヒョニョン
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