わざわざ韓国の地方まで出掛けていって、パンを食べたい、という気持ちを理解できない人は多いかもしれない。せっかく韓国にいるのだから、韓国らしいものを食べた方がよいのではないかという意見はもっともである。
それを踏まえても、ついついパンをすすめてしまうのは、今の韓国に地方の老舗ベーカリーブームが来ているというのが1つの理由。はやりという点でまず注目したい。
地方のパンもご当地グルメだ
韓国では2000年代中盤からカフェブームが本格化し、それと同調して本格スイーツを提供する店や、こだわりの小規模なベーカリーが増えていった。
2010年にKBS放送で放映された、ドラマ「제빵왕 김탁구(製パン王 キム・タック)」のヒットも大きな転機となった。
空前のご当地パンブーム
ブームは現在も継続しており、ソウルのデパートでは地方のベーカリーが期間限定で出店し、大行列ができるまでになっている。
군산(群山)の「이성당(李盛堂、1945年創業)」や、안동(安東)の「맘모스제과(マンモス製菓、1974年創業)」などの有名地方ベーカリーと並び、대전(大田)を代表するベーカリーが「성심당(聖心堂、1956年創業)」である。本店のみならず、大田駅にも支店があるため、観光客たちが大田土産にと、こぞって買っていく。
聖心堂の看板商品
そんな聖心堂の看板商品が부추빵(ニラパン)と튀김소보로(揚げそぼろパン)の2つ。
ニラパンはほんのり甘めの生地に、刻んだソーセージ入りのニラ玉が入っており、かなり強烈な香りを漂わせる。パンとニラという組み合わせに多少違和感はあるものの、不思議な魅力があって、ついまた食べたくなる。
揚げそぼろパンは表面のカリカリしたあんドーナツ風。表面をでこぼこに仕上げたそぼろパンは韓国各地で食べられるが、それを揚げることでカリッと仕上げたのがこのパンの魅力だ。
地元のソウルフード
こうしたパンは地元の人たちにとって、子どもの頃から食べてきた、いわばソウルフード。
もし大田出身の人に会って、「こないだ聖心堂でニラパンと揚げそぼろパンを食べてきたよ」と言ったら、大興奮で喜んでくれるに違いない。
これぞまさにはやりものを楽しむ以上のおすすめ要素。パン1つで韓国人の心をつかむ、強力なエピソードにもなる。
(写真提供:八田靖史)
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