多くの言語には、「この」「その」「あの」のように物の位置を指し示す言葉があります。専門的には指示詞と呼ばれますが、韓国語にもこの指示詞があり、이、그、저がそれに当たります。
韓国語と日本語は指示詞のシステムが似ており、指し示す物体と話し手・聞き手の距離によって3種類の指示詞を使い分けます。「この・이」は話し手に近い物、「その・그」は聞き手に近い物、そして「あの・저」は両者どちらからも遠い物を指し示すときに使われます。
この使い分けがほとんど一緒なので、韓国語を勉強するときも、基本的には迷うことなく使い分けることができます。注意点としてよく挙げられるのは、何かを頭に思い浮かべながら話すとき、日本語で「あの時の……」とか「あの人は……」と言うのに対して、韓国語では그때や그 사람のように그を使う点です。このことについては、初級の学習書であればたいてい触れているので、知っている方も多いと思います。
実はこの指示詞には、注意するところがあります。それが、タイトルにも書いた「この」と訳すことのできる저です。저を「この」と訳すなんて、想像もつかないでしょうか?
例えば皆さんが、リビングで誰かと一緒にテレビを見ているとします。二人ともソファに座って隣り合ってテレビに向かい、ドラマを見ているという状況を考えてみてください。もし、隣にいる人にそのドラマについて何か言いたいとき、皆さんなら「この」「その」「あの」のどれを使いますか?
いかがでしょうか? 今まさに目の前に映像が流れているのであれば、おそらく大部分の方は「このドラマ」を選んだのではないでしょうか。では、韓国語ではこうした時に何と言うでしょうか?
( ) 드라마, 너무 재밌네.
この、저
もうお分かりと思いますが、韓国語の場合、この状況では이ではなく저を使います。韓国語の저は「両者どちらからも遠い物」という用法に忠実に従います。テレビ画面(およびそれに映っている物)は、それを見ている「こちら側」の二人からは心理的に遠い所にあるわけです。従ってこの場合の저は、「この」と訳すことができる저になります。
もう一つ、事例を挙げましょう。フェイスブックやツイッターなどでは、短めの文章が連続して投稿されていく形になっています。このとき、一つの投稿に対して別の投稿から言及するときには、日本語では「この」、韓国語では저を使います。韓国語では、別の投稿は「向こう側」であり、その投稿を読む「こちら側」からは遠い所にあるのです。


