目の前にいる人や、見えるものをカメラに収め、編集して完成させていくドキュメンタリー映画。撮影は入念な準備を経て行われるが、そこに「ない」ものを写すことはできないし、語られなかった言葉を聞くこともできない。『済州島 声たち』は、そんなドキュメンタリーにしかできない形で、見えない風景や聞こえない言葉を見る人に伝えようとする作品だ。
済州4・3事件後を生きた女性たち

1945年8月15日、日本の敗戦により植民地支配から解放された朝鮮半島。人々は新しい国づくりに向けて動き出すが、ほどなくアメリカとソ連による分割統治が始まってしまい、南北それぞれでの新国家樹立へと向かう。

1947年3月1日に起きた警官による発砲事件で民間人が亡くなったことによりアメリカ軍政への反発を強めていた済州島では、南側単独での選挙の日が近づいた1948年4月3日に一部の島民が武装蜂起。
鎮圧に入った軍、警察、極右集団による暴力は、蜂起とは無関係の老若男女にまで及び、1954年9月までに約3万人もの命が奪われた。家族や身近な人たちの死を目撃しながらも生き延びた人たちは、その後、70年以上の時間を沈黙のなかで過ごしてきた。
事件を描いてきた数々の映画

韓国でも長らく語ることがタブー視されてきた済州4・3事件。2000年に「済州4・3事件真相究明および犠牲者名誉回復に関する特別法」が公布されたことで、ようやく被害の実態が少しずつ明らかになってきた。
映画では、2013年に地元出身の오멸(オ・ミョル)監督が『지슬(チスル)』を発表。山中の洞窟に隠れる島民たちと、彼ら彼女らを追い詰める討伐隊の姿をモノクロ映像で描いた。

さらに、近年は、本欄でも取り上げた하명미(ハ・ミョンミ)監督の『한란(済州島四・三事件 ハラン)』、今年4月に韓国で公開された정지영(チョン・ジヨン)監督の『내 이름은(私の名前は)』と、女性の視点から事件を振り返る作品も登場している。
記録されなかった歴史を探して

『済州島 声たち』に証言者として登場するのは撮影当時81歳から92歳だった4人の女性たち。その言葉や佇まいから、当時、起きたことの悲惨さはもちろん、その後の人生の過酷さも伝わってくる。男性たちがいなくなった村で力仕事に駆り出されたり、討伐隊による性暴力を避けるため、望まない早婚を強いられたりした記憶。

特に、集団虐殺事件の唯一の生存者である김은순(キム・ウンスン)さんの「語れない口元」は、彼女の感じた恐怖をどんな言葉よりも強く訴える。また、事件の犠牲者たちを記憶するための慰霊碑に、自らの名前ではなく「誰々の妻」、「誰々の女」と記された女性たちが多数いたことも、彼女たちが当時の社会でどんな立場にいたのかを想像させる。
済州島は事件の起きるたった3年前まで日本の「一部」だった場所だ。そのことも頭の片隅に置きながら、彼女たちの言葉に耳を傾けたい。

原題:목소리들
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邦題:済州島 声たち
公開:(韓国)2025年4月2日(日本)2026年11月7日
監督:チ・ヘウォン
出演:コ・ジョンジャ、キム・ヨンヨル、キム・スンスン、ホン・スンゴン
公式ホームページ: https://strollfilms.com/voices
